乃南アサ『女刑事音道貴子 花散る頃の殺人』
寝坊した朝、近くの米屋に息子の交通違反の揉み消しを懇願された貴子。どうして米屋が自分のことを知っているのか不審に思い尋ねると、貴子が刑事であることを記した葉書を拾ったという。確かにそれは貴子が細かく破り捨てたものだったが、きれいにつなぎ合わされていた・・・「あなたの匂い」
直木賞受賞作『凍える牙』に続くシリーズ第2作。今回は短編集です。
●「あなたの匂い」
細かく破って捨てた葉書を丁寧につなぎ合わせたのは誰・・・うーん、これは男でも気持ちが悪い。やっぱり、いやじゃないですか。
●「冬の軋み」
若い男女に暴行を受けた男は「よく覚えていない」の一点張りだが・・・子供を守るという話だったのがいつの間にか世間体を守る話に。そういうものじゃない気がするのですが。
●「花散る頃の殺人」
ホテルで見つかった老齢の男女の遺体からは、あんずのような香りがした・・・あまりに寂しい人生の結末。彼らの生涯を掘り起こしていくあたりがいい。
●「長夜」
道ばたで目を開けたまま寝ている女。それは貴子が知っている女の死体だった・・・ちょっと理解しがたい生き方かな。貴子の元同僚という安雲がなかなかおもしろいキャラでした。
●「茶碗酒」
大晦日、宿直の滝沢たちは休憩に入り酒を飲みだしたが・・・大晦日というシチュエーションが、妙に滝沢と合っている気がしてしまいました。短く、たいしたことも起きませんが非常に印象的。
●「雛の夜」
ホテルに急行するが倒れているはずの少女がいない、という事件が頻発した・・・ちょっと方に力が入りすぎているかもしれないけれど、こういう正義感は悪くないですね。少なくとも、ないよりはあるほうがいいです。
やたらと人間くさい短編集。貴子のプライベートはもとより、被害者や加害者、関係者の人間らしい面がむき出しにされたような作品がそろっています。ある種のいやらしさを持って。そういった中、「茶碗酒」は一服の清涼剤のようなものかもしれません。
今回新たに貴子とコンビを組んでいる八十田もいい人物ですが、少々物足りません。やはり、滝沢の方がいい組み合わせじゃないかな。あれくらいアクの強さを持つ方が読んでいておもしろいです。
収録作:「あなたの匂い」「冬の軋み」「花散る頃の殺人」「長夜」「茶碗酒」「雛の夜」
関連作:『凍える牙』
女刑事音道貴子 花散る頃の殺人 (新潮文庫) | |
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