法月綸太郎『しらみつぶしの時計』

 ノリリンといえば探偵役は法月綸太郎。今回はそこをはずして、ノン・シリーズの作品を集めた短編集。全10作品。


「使用中」
 編集者と打ち合わせていた作家の新谷は下腹がうずいて席を外したが・・・『大密室』で既読。シチュエーションの面白さが光る作品です。このあとの展開が気になります。
「ダブル・プレイ」
 妻と不和になった省平は、出先で出会った男から交換殺人を持ちかけられた・・・『不透明な殺人』で既読。凝りに凝った交換殺人が複雑で興味深い。
「素人芸」
 内緒で高価な腹話術の人形を買った妻に、夫は腹を立て・・・ホラーのような感触を一瞬でユーモアに変えてしまったオチが見事。
「盗まれた手紙」
 南京錠をかけられた秘密の手紙は相手しか読めないはず。だが、手紙は途中で抜き取られた・・・比較的わかりやすいパズルのような作品。ただしはじめからこの方法で手紙が送られることがわかっていないと不可能な犯罪であることは否定できません。
「イン・メモリアム」
 依頼された原稿は・・・本文わずか4頁の掌編。奇妙で味わいのある作品です。
「猫の巡礼」
 夫妻が飼うのは猫のみどろ。猫は聖地へ巡礼に行くと聞いたのだが・・・異色作。全くミステリではありませんが、殺伐とした中の癒しのようでした。こういうのもいいですね。
四色問題
 殺された女は、左の手首に「X」のような切り傷があった・・・『退職刑事』のダイイング・メッセージもの。何故こんな回りくどい方法を使うのか、という根本的な疑問にぶち当たりそうです。ただ、ノリリンらしい気はします。
「幽霊をやとった女」
 資格を失った私立探偵への依頼は、夫の様子を心配してのものだった・・・ハードボイルドを融合させた作品。こういった作品はやはり御手の物でしょうか。
「しらみつぶしの時計」
 それぞれすべてが異なる時間を差す1440個の時計。本当に正しい時計は・・・このオチを持ってくるためにこの数学的な文章を続けるのは正直如何なものかと。
「トゥ・オブ・アス」
 高校時代の同級生木下悠子と北沢靖子は就職後も同じ部屋に暮らすほど仲が良かったが・・・『不条理な殺人』で既読。まったく不条理。これはこれでよかったのですが、長編化した『二の悲劇』のほうが読み応えがあり、完成度も高いという思いは変わりません。


 ミステリを突き詰めていくとこういうことになるのかもしれませんが、全体に、というか初読の作品にパズルゲームのようなものが多く、残念でした。少なくとも僕はミステリに数学の解法であることを期待しているのではなく、推理小説であることを期待しています。単なるパズルゲームなら、それの専門家に任せておけばいいじゃないですか。


収録作:「使用中」「ダブル・プレイ」「素人芸」「盗まれた手紙」「イン・メモリアム」「猫の巡礼」「四色問題」「幽霊をやとった女」「しらみつぶしの時計」「トゥ・オブ・アス」
関連作:『二の悲劇』『不透明な殺人』『不条理な殺人』『大密室

2008年9月11日読了 【5点】にほんブログ村 本ブログへ
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