宮木あや子『白蝶花』

 大正時代の芸妓、戦前の妾、戦中の女中、そして終戦直後の政治家の娘。時代は移り変われども、女はただひたすら一途に男を思い続けた。いまだ女性に自由がない抑圧された時代を駆け抜けた女性たちの恋物語


 宮木あや子さんの3作目はデビュー作『花宵道中』のような雰囲気を持つ連作集でした。『雨の塔』のような現代ものよりもお気に入りです。
「天人菊」
 同じ置屋に売られてしまった菊代と雛代の姉妹。旦那もいるけれど、菊代が気になるのは黒田という男・・・ままならぬ恋の切なさが強く伝わる一編。『花宵道中』同様、この世界は作者のお手のものでしょうか。
凌霄葛
 父が残した借金のために女学校を中退し、三島の妾となった泉美。突然現れた男は、三島の長男吉明だった・・・誇りを捨てない生き方。女性の強さを感じます。どんなに苦しく、つらいものでも耐え、待ち続ける強さを。
「乙女椿」
 酒田から女中奉公のため福岡へ来た千恵子。漆間家のお嬢様和江はたいそう気難しく・・・戦争という無情に引き離されてしまう女性たち。その時代に身を置かなければ本当のところはわからないでしょうが、自由にならない時代だからこそ、感情を突き動かされるような激しい恋をするのかも知れません。三編をつなぐこの書き下ろしの展開には脱帽です。
「雪割草」
 ぼやけてゆく記憶の中、和江が思い出すのは正文と出会ったころのこと、そして・・・戦後の自由を獲得しつつある時代、残された遺物との戦いでしょうか。そして、間に合ったのかどうか気になって仕方ありません。


 内容から言っても長さから言っても「乙女椿」が中心で、あとはプロロ−グとエピローグのようなものかもしれません。ただし、決してそれらはおまけではなく、それぞれの時代の女性の強さと弱さ、そして儚さを描いた作品です。
 各編のタイトルでもないのにこの作品集に付けられた『白蝶花』という書名。読後に扉にある紹介文を読み返すと、この女性たちの強さがより深く身にしみるような気がします。


収録作:「天人菊」「凌霄葛」「乙女椿」「雪割草」

2008年8月11日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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