中田永一『百瀬、こっちを向いて。』
アンソロジー『I LOVE YOU』に収録された「百瀬、こっちを向いて。」で颯爽と登場した覆面作家中田永一さんのデビュー短編集。
●「百瀬、こっちを向いて。」
人間レベルが低い僕は、幼馴染の宮崎先輩からの頼みごとを引き受けた・・・既読。嘘から出た実という言葉があるけれど、意外性を持たせたラストがいいです。
●「なみうちぎわ」
意識をなくしていた5年の間に、家庭教師の教え子は自分の学年を越えていた・・・設定は少し残酷、そして切ない。ただし、ミステリ仕立ての結末まできれいに連れて行ってくれます。
●「キャベツ畑に彼の声」
テープおこしのバイトをしていた久里子。収められた覆面作家の声は国語教師によく似ていた・・・だんだん近くなっていく距離と、感じられるあたたかさがいいですね。*1
●「小梅が通る」
目立たぬよう地味メイクをしていた柚木は、クラスメイトの寛太に素顔を見られ、咄嗟に妹の小梅を名乗ってしまう・・・こういう逆コンプレックスのようなものを抱えている人って、きっといるんでしょうね。終わり方も、ここで終わるというのがちょうどいい感じでした。また、同じグループのふたりの気配りも嬉しいところ。
表紙の白さと相俟って、ピュアなイメージの強い短編集でした。少しのほろ苦さと、それを包み込んでしまうような甘酸っぱさ。その具合がなんとも心地よいです。次は表紙も中身も黒いのだったらどうしましょう。
ちょっとしたミステリ仕立てになっているようなところはいかにもあの人を彷彿させるのですが、どうなんでしょうね。オススメできる作品集です。
収録作:「百瀬、こっちを向いて。」「なみうちぎわ」「キャベツ畑に彼の声」「小梅が通る」
関連作:『I LOVE YOU』
- 粋な提案さま(2008.08.29追加)
百瀬、こっちを向いて。 | |
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*1:余談ですが、久里子が読んでいたのはやはり「なみうちぎわ」でしょうか。