有川浩『海の底』

 桜祭りにあわせて開放された横須賀基地にやってきたのは市民だけでなく、海から無数の巨大な甲殻類が襲ってきた。停泊中の潜水艦「きりしお」の夏木大和と冬原春臣は、艦長の命と引き換えに逃げ遅れた子どもたち13人を艦内に避難させることに成功したのだが・・・


 自衛隊三部作の第三弾。今度の舞台は海です。
 食糧としてのヒトを求め横須賀を襲撃する巨大甲殻類「レガリス」、それを食い止めようとする機動隊、機動隊の立場を尊重しつつ出撃を待つ自衛隊、そして救出を待つ「きりしお」という構図。
 でも、だからといってこの物語は「いかにして機動隊や自衛隊はレガリスを倒し、きりしおを救うのか」という物語ではありません。いや、そういう面もありますが、やはりメインになるのはきりしお艦内での自衛官と子どもたちとのやりとりです。何せ「潜水艦で十五少年漂流記」ですから。


 これだけの人数が狭いところで何日も過ごすのですから、当然そこにはいろいろなドラマが発生します。そこに地上での人間関係や生い立ちが持ち込まれ作られるストーリーがお見事です。紅一点だったメンバー構成もよかったかも。ただ、若干子どもたちが年齢より幼く見える気がしました。こういう緊急事態だからでしょうか。だから、声変わりのエピソードは年齢にあっていないように思えてしまい、ちょっとした違和感がありました。
 また、夏木と冬原の問題児コンビがかっこいい。艦長の遺志を継ぎ、救出まで子どもたちの面倒を見ようとするふたり。その必死さが目に見える夏木と飄々としている冬原との対比もおもしろいです。夏木が望を必要以上に意識しているのもありありと見えますね。「有能な彼女」以前はこんなだったのか・・・
 もちろん、「きりしお」の外にもドラマはあります。中でも機動隊の壊走に至る過程は、その生き様に感動してしまいます。まさに散り方の美学。またそれを演出する側に立った烏丸、明石といった面々もよかったなあ。と同時に、やっぱりこの国のセクショナリズムの悪い面を見せ付けられた思いがします。
 ただひたすらに没頭して楽しむことができる上質なエンターテインメント作品。自衛隊三部作では一番好きかも。


関連作:『クジラの彼

2008年7月8日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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