有川浩『空の中』
四国沖の演習空域で試験機「スワローテイル」と自衛隊のF15Jイーグル戦闘機が相次いで謎の事故を起した。その高度は2万メートル。事故機とともに飛行していた武田光稀三尉と日本航空機設計の春名高巳は現地調査に乗り出す。一方、高知ではイーグルのパイロット斉木の遺児瞬が浜辺で不思議な物体を見つけていた・・・
『図書館戦争』で大ブレイクした有川さんの自衛隊三部作第二弾は、大空を舞台に繰り広げられる「未知との遭遇」です。
「大人ライトノベル」を掲げ、文庫ではなく単行本で刊行されたこの作品は、荒唐無稽な物語かもしれませんが、読み応えがありました。
一番の読みどころは【白鯨】をめぐる「セーブ・ザ・セーフ」とのやりとりでしょうか。日本を、人類を守るためにこの問題に立ち向かうという点で対策本部とは違いはありません。ただし、根本にあるものが違うため、方法がことごとく違う方向を向いている感じです。そこに歪みがあります。
ただし、この物語の主題は瞬と佳江というふたりの成長にあると思います。この年頃特有の危うさが巧みに表現され、なかでも瞬はフェイクと出会ってからののめり込み方、そして誤りに気付いたあとの自問自答が非常に痛々しく描かれています。それはふたりにとって大人への道、未来への通過点です。ちょっと大規模なものですが。
そんなふたりを真っ当に導く宮じいが魅力的でした。宮じいの言葉は一つ一つがどれも重く、心にしみます。そう感じること自体、きっと僕自身やはりまだまだ子どもなのだということでしょうね。
もっとも、「スカイドン」にピンと反応してしまった時には自分の年齢を感じずにはいられませんでした。いや、リアルタイムでは知らないですけど。
【白鯨】と高巳とのやり取りも緊迫した中にユーモラスな雰囲気が漂い、遅々として進展していないにもかかわらず飽きさせないのがいいですね。
また、ラブストーリーの側面もありますが、有川さんの後の作品のように甘すぎないところにも注目でしょうか。『クジラの彼』には、その後の高巳と光稀を描いた「ファイターパイロットの君」が収められています。甘いのがいい方はそちらも。
なお、角川文庫版に新たに併録された「仁淀の神様」は一読の価値あり。単行本で読んだ方もこれのためだけに文庫版を手にとってほしいです。特に宮じいファンの方は必読。
収録作:「空の中」「仁淀の神様」
関連作:『クジラの彼』
- 怪鳥の【ちょ〜『鈍速』飛行日誌】さま(2008.07.16追加)
- クロてんマジックさま(2008.08.16追加)
- 本の宇宙(そら) 風と雲の郷 貴賓館さま(2009.08.10追加)
空の中 (角川文庫 あ 48-1) | |
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