アンソロジー『Story Seller』

 一人の編集者が独自に編集したアンソロジー。「面白いお話、売ります。」表紙のその言葉に嘘偽りはありません。


伊坂幸太郎「首折り男の周辺」
 テレビを見て隣人を「首折り男かも」と疑った安永夫妻。首折り男の特徴は確かに隣人にピッタリだったが・・・視点を頻繁に切り換えることで読者を煙に巻くようなお得意のテクニック。登場する二人の容姿が似ているため、厄介なことこの上ないですが、非常に伊坂さんらしい作品。ただ少々物足りないかも。
近藤史恵プロトンの中の孤独」
 「チーム・オッジ」に加入した赤城。なんとなく溶け込めない彼だったが、溶け込もうとしない石尾の相談役を任された・・・『サクリファイス』外伝。外伝だけに本編の引立て役に徹した印象。アシスト役ということか。未読の方はぜひ本編も読んでください。
有川浩「ストーリー・セラー」
 売れっ子作家になった妻が襲われた病は、思考することと引き換えに寿命を失う奇病だった・・・勘弁してください、涙腺を攻めるのは。恥ずかしくなるほどストレートなラブストーリーですが、甘さと苦さを併せ持つ作品。いつもの有川さんの甘いばかりのラブストーリーのつもりで読むと痛い目に遭います。どこか有川さんご本人とダブるのですが、こんな運命が訪れないことを祈ります。
米澤穂信「玉野五十鈴の誉れ」
 旧家の跡取り娘純香。彼女の誕生日に祖母から贈られたものは、同い年の使用人五十鈴・・・「バベルの会」シリーズの一編。「で、このあとどうなったの?」と思わせるまとめ方がうまい。ただ、終盤の大逆転に慌しさと都合のよさを感じてしまったことが残念。
佐藤友哉「333のテッペン」
 東京タワーのてっぺんで起きた殺人事件。掴んだはずの平凡な日常は、様変わりしていく・・・初めて読んだユヤタンは、予想していたよりもおとなしい印象。もっと過激なものを書くのかと思っていました。いつもこういった感じの作品なのでしょうか。そういえば、似たような感じのミステリをひとつ、思い出してしまいました。随分前に読んだものですが。
道尾秀介「光の箱」
 同窓会の会場に向かう圭介は、懐かしい日々を思い出していた。それは光と闇の日々、そして弥生のこと・・・やられた。こういう作品を書くだろうことは予想できるのに。暗闇の中、たった一筋の光明でも、あきらめなければいつか光射す明るいところへ出られる。
本多孝好「ここじゃない場所」
 私が秋山を見つめるのには理由がある。それは、彼が私の目の前で消えたからだ・・・静謐な作品を書くイメージがあったのですが、こういう作品を書くとは予想外。このシリーズはおもしろそうで、ちょっと追いかけてみたい。


 とにかく豪華なメンバーで、内容も充実しています。中編が揃っているだけに読み応えがあり、これで780円というのはかなりコストパフォーマンスがいいのではないでしょうか。雑誌の形態をとっているのでいまだに店頭に並んでいるか定かではありませんが、見つけたら迷わずレジまでダッシュすることをオススメします。
 こんな豪華な作品集、また読ませてください。


収録作:伊坂幸太郎「首折り男の周辺」/近藤史恵プロトンの中の孤独」/有川浩「ストーリー・セラー」/米澤穂信「玉野五十鈴の誉れ」/佐藤友哉「333のテッペン」/道尾秀介「光の箱」/本多孝好「ここじゃない場所」
関連作:近藤史恵サクリファイス

2008年7月2日読了 【10点】にほんブログ村 本ブログへ
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Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]
Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]
新潮社 2008-04-10

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