井口ひろみ『月のころはさらなり』

 母親に連れられて、山奥の庵にやってきた悟。そこで出会ったのは、年老いたおんば様と謎の美少女茅、そして生意気な少年真だった。この庵はは何のためにあるのか? 残してきた父親はどこへ? 切ない夏は、悟に何をもたらすのか・・・


 あの宮部みゆきさんが絶賛した第3回新潮エンターテインメント大賞受賞作。宮部さんが現代の田舎を舞台に物語を書くと、こういう感じになるのかもしれないと思わせる作品でした。言いすぎでしょうか。
 例えば【鈴鳴らし】や【魂翔け】【魂振り】のような特殊能力はいかにも宮部さんが好きそうですし、その描写も美しく、景色が眼に浮かぶかのよう。
 ただし、いろいろと詰め込んだ、というわけではないのに物語の軸がはっきりせず、どうにも先が見えないのは残念でした。まるで松明を灯して前に進むかのようです。
 また、人間関係の深さや闇のような部分が足りないような気もしました。200ページ程度の長さでは致し方ないことでしょうか。ここにもう一歩踏み込むことが出来れば、悟と園子、真と真彦という親子関係の対比とか、より際立ったと思うのですが。


 読後に残る爽やかさは、物語の舞台や登場人物によるものだけではないはず。次回作にもこの爽やかさが生かされていれば嬉しいです。

2008年6月4日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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月のころはさらなり
月のころはさらなり井口ひろみ
新潮社 2008-01
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