道尾秀介『シャドウ』

 癌で母・咲枝を亡くした小学五年生の我茂凰介。葬儀から一週間ほどで凰介は登校したが、今度は幼馴染の水城亜紀の母・恵が夫の職場から転落死してしまう。亜紀も車にはねられ、父・洋一郎や亜紀の父・徹の様子もおかしい。いったい両家には何が起きているのか・・・


 ミステリ・フロンティア第27回配本作品。第7回本格ミステリ大賞小説部門受賞作。
 ミスディレクションを多用した心理ミステリ。変わらぬ巧みな技術が見られます。多視点を活用した複雑な構造で、語るべきところとそうでないところを正確に使い分けています。それでいて過剰にごちゃつくことはなく、きれいにまとめられていて、スムーズに物語に引き込んでくれます。


 道尾さんの作品はまだ3作しか読んでいませんが、登場人物に対する徹底した厳しさがあるように感じられます。試練を与えているというべきかも。それが道尾さんの発言にある「本格ミステリほど人間を描ける、感情を描けるジャンルはほかにないんじゃないか」ということかもしれません。その点、本作は以前読んだ『向日葵の咲かない夏』に近いのかと。
 では、何が違うのかと考えたときに、思いついたのはやはり読後感でしょうか。『向日葵の咲かない夏』ではその不条理を生理的に受け付けられず、突き放されるような感覚がありました。今回の結末もまた決して正しいとか、きれいだとか言うべきものだとは思いませんが、それでも『向日葵の咲かない夏』ほどの読後感の悪さはありませんし、十分に受け入れられるものでした。もっとも、真相のインパクトでは劣りますが。


 ますます読みたくなる道尾作品。次は『背の眼』か、それとも『ソロモンの犬』か。

2008年5月29日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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starラスト。全ての謎が解ける心地良さ。唸って下さい。
star転々々々
star秀作
stars新たな俊英が描く本格ミステリ
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