アンソロジー『川に死体のある風景』

 6人のミステリ作家が「川に死体のある風景」をテーマに競い合うアンソロジー。


歌野晶午「玉川上死」
 太宰が入水自殺した玉川上水に浮かぶのは、紺色のジャージを着た・・・死体じゃありません。「川ミス」の縛りにのっけから変化球ですが、それを使っただけのおもしろさはあります。ミステリとしては直球。
黒田研二「水底の連鎖」
 その川に飛び込んだ車は1台のはずだったが・・・次々と引き上げられる車という謎がなかなか魅力的。ただ結末はちょっと強引か。
大倉崇裕「捜索者」
 捜索隊の留守番役は、なぜか沢で遺体となって発見された・・・「山ミス」あるいは「沢ミス」です。徐々に真実が見えてくるさまは興味深いですが、実現性には無理があるような気がします。近いうちにまとまるであろう「山ミス」集を読みたくなります。
佳多山大地「この世でいちばん珍しい水死人」
 伯父を探しにコロンビアまで来た僕は、伯父が絡んだ死体が川に浮かんだ話を聞かされた・・・複雑な構成で読みにくいのですが、最後には鮮やかに世界を反転させてくれます。今後に期待。
綾辻行人「悪霊憑き」
 散歩中の川に浮かぶ死体は奇行を繰り返した女だった・・・「この世には不思議なことなど何もない」という言葉のとおり、きれいにまとめられた一編。ただ、これもいいけれどやはりあとがきにあったアイデアをぜひ読んで見たいです。
有栖川有栖「桜川のオフィーリア」
 桜川の浅瀬に浮いた同級生の死体は美しく、眠っているかのようだった・・・美しい映像が目に浮かぶような作品。ロマンチシズムに満ち溢れています。ところで桜川って『女王国の城』でどういう扱いだったでしょう。


 全体に他の作家との差別化のためか、奇をてらうようなひねり方が多かったようです。ただ、そのためか川に死体が浮くこととの関係が薄く感じられ残念でした。
 橋の上から、あるいは土手や堤防からちょっとあやしいものが見えたりすると「あれは!」と思ってしまう今日この頃です。


収録作:歌野晶午「玉川上死」/黒田研二「水底の連鎖」/大倉崇裕「捜索者」/佳多山大地「この世でいちばん珍しい水死人」/綾辻行人「悪霊憑き」/有栖川有栖「桜川のオフィーリア」

2008年3月9日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
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