柴崎友香、田雑芳一『いつか、僕らの途中で』

 京都で大学院に通う「わたし」と、京都の大学を出て故郷山梨で高校教師になった「僕」。遠く離れたふたりは時間をかけて、手紙のやりとりで見たこと、感じたことを伝える。書く時間、届くまでの時間を楽しみながら・・・


 作家とイラストレーターのコラボレーションは、往復書簡の形式で紡がれる一年の物語でした。
 何も劇的なことや特別なことは起きない。起きないけれども、そこには伝えたいという思いが確実に存在しています。春なら桜のこと、夏には暑さのこと、秋には色づきのこと、そして冬には雪のこと、と。それは、ふたりだけの特別なこと。
 もちろん、ふたりが会っていれば手紙は書かない、書く必要はないわけで、会う前の手紙はあっても会っているときのことは書かれていません。それがぶつ切りのようにならず、余韻を残すように次の季節へと移っていくのもなんだか心地よいです。
 淡く、そしてあたたかい田雑さんのイラストが絶妙で、雰囲気に合っていたことも見逃せません。


 通信手段の発達により、手紙を書く機会は失われつつあります。実際、最後に手紙を書いたのはいつだろう、という方も多いのでは。しかし、手紙には手紙でしか伝えられないような何かがあります、きっと。

2008年3月3日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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いつか、僕らの途中で
いつか、僕らの途中で柴崎友香/田雜芳一
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