道尾秀介『ラットマン』

 コピーバンドでギターを担当している姫川。高校のときから同じメンバーで活動してきたが、2年前にドラムのひかりが妹の桂に交代した。それ以来、恋人でもあるひかりとの関係はギクシャクしている。いつも使っていたスタジオのが閉鎖が決まり、ぞこでの最後の練習中、悲劇は起きた・・・


 一昨年、『向日葵の咲かない夏』を読んで自分に合わないと決め付けていた道尾さん。紹介文に惹かれて懲りずに読んでみましたが・・・これはなかなかおもしろい作品でした。
 前半、特に事件が起きるまでは若干状況が飲み込みにくく感じたものの、事件の後はかなりスリリングで、ラストまで怒涛の一気読み。『ラットマン(=騙し絵の一種)』というタイトルどおり、巧みに配置されたレッドへリングで注意していてもミスディレクションの罠にはまってしまいます。特に現在と過去の使い方には感心するばかり。
 また、昨年『シャドウ』で本格ミステリ大賞を受賞した際に、道尾さんは座談会で「本格ミステリほど人間を描ける、感情を描けるジャンルはほかにないんじゃないか」と発言されています。本格ミステリがそのベストジャンルなのかわかりませんが、新たに知りえた事実だけでなく、感情の移り変わりがものの見え方を変えるということを巧みに描いた作品であることに間違いはありません。


 ただし、「誰が殺人を犯したのか」という謎については、本当にその人なのか、他の人物をかばっているんじゃないかという疑問が拭えませんでした。それは、その真相に至るまでの明確な裏付けが見つけられないためで、残念なのと同時に小さなひっかかりのような印象が残ります。

2008年3月1日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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ラットマン
ラットマン道尾秀介
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おすすめ平均 star
starこんな騙し方があったのか!
star不思議な、しかし絶妙なタイトル名。
starラストまで気が抜けず…やられたって感じです!!

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