太田忠司『奇談蒐集家』
「求む奇談!」その言葉を目にして「strawberry hill」を訪れた者たちは、この世の話とは思えない奇談を口にする。奇談蒐集家の恵美酒は喜ぶが、傍らにいる美貌の助手氷坂は奇談の謎をたちまち解き明かしてしまうのだった。
この世の奇談を解き明かす安楽椅子探偵もの。
●「自分の影に刺された男」
子どもの頃から怖がりだった仁藤。その日も仕事帰りに自分の影のひとつが動き、背中を刺されたと言う・・・都市伝説のような現代の奇談。身につまされる人も多いのでは。
●「古道具屋の姫君」
学生の頃、矢来が本を買う予定だった金で買った姿見。そこには美しい姫君が住んでいる・・・過去だけでなく現在をも打ち砕くような真相に衝撃。
●「不器用な魔術師」
フランスで出会ったパトリスという若者は、不思議な予言で美智をアパルトマンの火災から救うと、姿を消してしまった・・・美しい思い出の苦い真相。
●「水色の魔人」
子供を消してしまう「水色の魔人」。ニッキやタッシと探偵団を結成していた懋は、魔人を捕まえようとたくらむが・・・少年探偵団、魔人という乱歩をイメージさせるような道具立て。もちろん、ストーリーも怪奇幻想的。
●「冬薔薇の館」
季節外れの薔薇が咲き乱れる館。智子はこの館で暮らすことを誘われ、準備のため家に戻るが・・・真相の想像はつくが、なんとも幻想的な妖しい雰囲気が漂う作品。
●「金眼銀眼邪眼」
交通事故で妹を失った小学生大樹は、ナイコと名乗る少年に連れられ夜の世界へ足を踏み込んだ・・・この世代の奇談を大人の事情とうまく絡めてあり、その結末に感心するばかり。
●「すべては奇談のために」
作家になることを夢見ていた男は、本業の傍らライターとして都市伝説を探していた・・・書下ろしの一編は、今までとは異なるアプローチでまとめにかかりますが、やや強引だったのでは。
全体に、奇談を語り終わると簡潔かつ速やかにその真相が明かされ、謎でもなんでもなくなってしまいます。しかし、そこには現実だけではなく、奇談が持っていた幻想的な余韻が残されています。巧みですね。
奇談に力が注がれた分、ミステリとしての盛り上がりは若干欠けますが、それを期待するような作品ではないでしょう。奇談の持つ幻想性、神秘性や、ノスタルジックな雰囲気を楽しむべきです。
収録作:「自分の影に刺された男」「古道具屋の姫君」「不器用な魔術師」「水色の魔人」「冬薔薇の館」「金眼銀眼邪眼」「すべては奇談のために」
奇談蒐集家 (創元クライム・クラブ) | |
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