皆川博子『倒立する塔の殺人』

 敗戦直後の高等女学校。三輪小枝から阿部欣子に渡されたのは「倒立する塔の殺人」と題された1冊の本。それは、少女たちによる回し書きの手記になっており、小枝にはどうしても解けない謎が残されていた。


 理論社のミステリーYA!。
 初めて読む皆川さんの作品にもうくらくら。フィクションとして書き出された作中作「倒立する塔の殺人」とこの時代を生きる少女たちの世界。そのどちらとも謎めき、魅惑的で、没頭したがために両者を隔てる境界線がどこなのかすっかりわからなくなってしまいました。
 身近な人が亡くなる、いなくなるというのが半ば日常的であった時代。敵機による爆撃で焼け出され、学ぶことすらできずに工場でひたすら軍需にいそしむ。そんな中でも輝きをなくすことのない少女たちの強さ、美しさに頭が下がる思いです。おそらくは少女たちと同世代で、同じような体験をされたであろう皆川さんだからこそ可能だった作品ではないでしょうか。
 この世界を、まだまだ読んでいきたいと思わせるのに十分な作品。ただ魅力のすべてを書き尽くせないのが悔しい一冊です。

2008年1月31日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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