北川歩実『運命の鎖』

 優秀な物理学者だった志方清吾。だが、彼は二十数年前、精子バンクに自分の精子を残して失踪してしまった。しかも、彼の父親は50%の確立で遺伝する遺伝病「アキヤ・ヨーク病」で亡くなっていたのだ。残された彼の子供たちは、人生の岐路に立たされていた・・・


 連作短編集。著者お得意のサイエンス・ミステリです。
「愛の結晶」
 探偵に父親探しを依頼した翔は、見つかるや否や刺してしまった・・・いきなりややこしいどんでん返しの連発。理解できるまで何度でも読み返してください。
「あなたの明日」
 人工授精で生まれ育ての親の実子として育てられた里佐は、遺伝子検査を依頼したが・・・これまたクルクル変わる展開がおもしろい。シンプルな分これがベストか。
「子供の顔」
 人工授精で生まれ、すでに子供も出産している夏美だが・・・遺伝といえば「これ」なのですが、すっかり忘れていたので驚きです。まあ、エゴですね。
「大切な人」
 君保のもとに、父親を断定する男・越沼が現れた。彼は君保の亡母とは知り合いだったという・・・いよいよ志方の秘密が明らかになってくるのですが、もう何がなんだか。混乱してしまいます。
「運命の鎖」
 志方の子供たちは、試料をまとめて検査することでリスクを分散しようと試みる・・・とうとう明らかになる遺伝の有無。ですが、あっさりしすぎていて尻すぼみです。


 とにかくどんでん返しの連続で、これでもかこれでもかとばかりに新しい事実が発覚し、様相が一変するのです。遺伝病や人工授精に関する話なので、世間体を慮ってか関係者もなかなか知っているすべてを話そうとはしません。隠し事はもちろんのこと、偽名や偽証も出てきます。しかも、真実を聞かされてもそれが真実とはわからないからなおさら。人間関係も実の親子から遺伝上の親子、戸籍上の親子までさまざま。
 もちろん、子供たち自身の遺伝子を調査してしまえば話は簡単なのですが、できることなら志方がアキヤ・ヨーク病の遺伝子を持っていない(=子供にも遺伝していない)ことを確認して済ませたいと考えているので、なかなか踏み切れないのです。
 各編を振り返ると、前半の3編は切れ味が鋭く、どんでん返しの効き目が強い作品です。どれも騙し、騙されという感じで、その駆け引きも楽しませてくれます。
 ですが、後半に入り志方捜しの色彩が濃くなるとどうでしょうか。途端に面白みが失せてしまったように感じます。最後もあれあれという間にあっさり終わってしまって尻すぼみ。前半の切れ味が印象深いだけに、がっかりしてしまいました。


収録作:「愛の結晶」「あなたの明日」「子供の顔」「大切な人」「運命の鎖」

2007年12月14日読了 【5点】にほんブログ村 本ブログへ
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