米澤穂信『遠まわりする雛』
神山高校に入学し、心ならずも古典部に入部してしまった折木奉太郎。「やらなくてもいいことなら、やらない。やるべきことなら手短に」をモットーとする省エネ主義者の奉太郎だが、福部里志、伊原摩耶花、そして千反田えるといった仲間たちは、彼に安息の時間を与えてくれなかった・・・
「古典部」シリーズの第4作は、奉太郎たち4人が神高に入学してから一年間を綴った短編集です。
●「やるべきことなら手短に」
学校の七不思議。えるは早くも好奇心を露わにするが、奉太郎は・・・うまいことやったとは思いますが、素直に解決した方が手間がかからない気がします。
●「大罪を犯す」
厳格な数学教師は、まだ教えてない部分を教えたものとなぜか勘違いした・・・真相とおぼしきものは極めて単純なことなのですが、そこに行き着くまでが楽しい作品。
●「正体見たり」
合宿に行った先は工事で休業中の宿。怪談話をした夜に、摩耶花とえるが幽霊らしき人影が見えた・・・古典部として合宿に行って何をするの?という疑問はあるのですが、それはさておき、合宿先の状況や登場する姉妹がうまく使われています。「影法師は独白する」改題。
●「心あたりのある者は」
放課後に入った教頭による呼び出しの校内放送。誰を、どんな理由で呼び出そうとしているのか・・・校内放送をもとに推論を重ねる安楽椅子探偵もの。こういう推理合戦的なものは結構好きです。『九マイルは遠すぎる』も読んでみたいものですが。
●「あきましておめでとう」
初詣に行った神社で、偶然納屋に閉じ込められてしまった奉太郎とえる。脱出を試み悪戦苦闘するが・・・大胆に伏線が提示されていておもしろい作品。ちょっと予想していませんでした。
●「手作りチョコレート事件」
摩耶花が里志のために手作りしたバレンタイン・チョコ。だが、置いてあった部室でチョコレートは何者かに盗まれてしまった・・・なんとも苦さが残る作品。考えれば考えるほど、思えば思うほど、でしょうか。
●「遠まわりする雛」
雛祭りの行列は、ちょっとした手違いで通れるはずだった橋が通れなくなってしまった。生き雛役のえるが気を利かせたのだが・・・推理の結果をお互いに見せ合う、どこかで見たようなシーンかもしれませんが、この作品集の掉尾を飾るのにふさわしい一編でした。彼が撮ったであろう写真も見てみたいものです。書き下ろし。
「氷菓」事件、「女帝」事件、「十文字」事件という3つの大事件の間を繋ぎ合わせるように語られる7つの短編。その順番が時系列で並べられているので、古典部4人の成長と心の移り変わりがより鮮明になります。
特に終盤のいくつかは、ミステリとしてもさることながら、○○小説に軸足を移したのかと思うくらい。奉太郎にとって、やるべきことが何なのか、今後じっくり考えて欲しいものです。
米澤さんによれば、このシリーズは卒業までとのこと。あと2年、この先古典部はどう変わっていくのでしょうか。
ところで、収録されていた「心あたりのある者は」は、推協賞の最終候補作だったわけですが、惜しくも落選。その選評は推協のHPで読むことができます。まあ、少し納得できない部分もあるのですが・・・
収録作:「やるべきことなら手短に」「大罪を犯す」「正体見たり」「心あたりのある者は」「あきましておめでとう」「手作りチョコレート事件」「遠まわりする雛」
関連作:『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』
- 粋な提案さま(2007.12.17追加)
- booklines.netさま(2007.12.17追加)
- ひなたでゆるりさま(2008.03.26追加)
- ホシノ図書館(本と映画の部屋)さま(2009.09.20追加)
遠まわりする雛 | |
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