樋口有介『不良少女』
取材費の前借りとアルバイトの探偵稼業で金欠をしのぐ“刑事事件専門のフリーライター”柚木草平。元上司で愛人の冴子や担当編集者の直海からの依頼を引き受け、今日も美女にまつわる事件を調べていく・・・
単行本未収録作品を集めた短編集。
●「秋の手紙」
冴子の依頼で、従姪の女子高生にラブレターを送り続ける中年歯科医と話をつけようとした柚木だったが、相手は手紙に心当たりがないと否定し続ける・・・殺しよりも何よりも、ある意味一番悲しい結末。短編としてまとまっているものの、若干物足りなさも感じます。
●「薔薇虫」
亡くなった代議士の家で、飼っていた犬と猫が相次いで死んだ。直海に頼まれ調べると、2匹はの死因はどちらも毒によるものだった・・・上流家庭を舞台にした切ない物語。それ自体は珍しくもないでしょうが、ペットの死に関心が向きました。
●「不良少女」
飲み歩いた夜にコンビニで出会った金髪に染めた少女は、いくつもビルを持つ富豪の一人娘。彼女の祖父の死は複雑な家庭環境に変化を加えようとしていた・・・中編。もっとも女性に翻弄された感が強い作品。冴子を放ってまでユカのもとへと急ぐ草平がシリアスに探偵をしている姿を表しているよう。
●「スペインの海」
常に3人の男性と援助交際する女性。何も問題はなかったはずだが、相手の元にはそれぞれデートの写真が送りつけられた・・・なんとも切ないラストが印象的。自業自得と言えばそれまでですが。
●「名探偵の自筆調書 柚木草平」
これはおまけ。柚木ならもう少し口調が重い気がし、違和感が残りました。
毎度のことですが、さまざまな女性と出会い、振り回される柚木草平。今回は短編集ですので、それだけの人数の美女が登場します。
ただ、短編集だけにそれぞれにはやや物足りなさを感じました。事件の底が浅いというか、あるいは仕掛けが足りないというか。ここでもう一山、もうひとひねりと期待したところでフェードアウトしていくような。ですから、いちばん楽しませてもらったのは中編の表題作「不良少女」。やはり、このシリーズは長編の方が適していると再確認しました。新作『捨て猫という名前の猫』に期待。
なお、あとがきに書かれている文体を変えたという件ですが、まったく気付きませんでした。違和感がなかったと言うか、むしろ読者として気にしていなかったというべきでしょうか。
余談ですが、「名探偵の自筆調書」は10年ほど前の連載時に楽しませてもらったものです。またどこかで似たようなことをやってもらえれば。
これで「プラスチック・ラブ」も収録されていればコンプリートだったのですが・・・
収録作:「秋の手紙」「薔薇虫」「不良少女」「スペインの海」「名探偵の自筆調書 柚木草平」
関連作:『彼女はたぶん魔法を使う』『初恋よ、さよならのキスをしよう』『探偵は今夜も憂鬱』『誰もわたしを愛さない』『刺青白書』『夢の終わりとそのつづき』
- 本の宇宙(そら) [風と雲の郷 貴賓館]さま(2008.10.27追加)
不良少女
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