似鳥鶏『理由あって冬に出る』

 文科系のクラブが集まった芸術棟。ここに夜になるとフルートを吹く幽霊が出るという。この噂によって練習ができなくなってしまった吹奏楽部は、美術部のアトリエで創作活動に励んでいた葉山を巻き込んで、その真相を確かめようとする。幽霊なんているわけないと夜の芸術棟に乗り込んだ葉山たちだったが・・・


 第16回鮎川哲也賞佳作入選作。受賞から1年を経ての刊行だけに相当の改稿があったであろうことは想像に難くないのですが、その甲斐あってか、予想以上におもしろい作品でした。
 もともとこういった学園もののミステリは好きなので、あらすじを一読しただけで期待はしていました。それだけに、全く異なるプロローグには少々驚かされました。
 幽霊が出るといっても、ミステリである以上そこには当然何かしらの仕掛けがあるわけですが、その物理トリック自体は決して快哉を叫ぶようなものではありません。
 しかしながら、この作品の見どころはそこ、つまりはハウダニットではなく、この幽霊事件全体のホワイダニットを中心にすえた構成と、この葉山をはじめとするユーモラスかつシニカルな登場人物たちにあります。
 幽霊事件の謎を追うということでこの作品の芯は貫かれており、事件はHow→Who→Whyの順で解き明かされていきます。ですが、そのままでは終わらずに、Whyの上になんとも言えず苦いと言うべきか黒いとも表現できるようなエピソードを乗せてメリハリをつけるあたり、大いに評価したいところです。
 また、表紙からも想像できるでしょうが、ライトノベル的なアプローチが試みられています。それは外側だけでなく内側もまたしかり。軽妙な語り口と適度なユーモア、そしてシニカルな眼差しというような設定の主人公をはじめとした人物設定はおそらくライトノベルを意識したのではないかと思われ、たいへん読みやすく感じました。しかもそういった描写をほどほどに抑え、ミステリとして突き進んだ点に好感が持てます。


 とにかく今後を期待したくなる作家であることは確か。せっかくなのでこの登場人物たちでシリーズ化をしたらよいのではないかと。先物買いな方にはぜひともおすすめ。

2007年11月5日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

理由あって冬に出る
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書評
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似鳥鶏
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おすすめ平均 star
star引き込まれない
starシリーズ化するのかな
starぎごちなすぎて残念
starsライトミステリとしては及第。
stars冬に出る〈幽霊〉とは
starミステリーとしては秀作の青春ミステリー

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