門井慶喜『人形の部屋』
かつて旅行会社に勤務しツアーのプランを立てていた八駒敬典は、「歩く百科事典」「電源のいらない検索サイト」などとも呼ばれる博学だったが、今は「家主」と称する専業主夫。中学生になる娘のつばめとともに知識を駆使し、身のまわりに起こる謎を解いていく・・・
「キッドナッパーズ」で第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー作『天才たちの値段』で高い評価を得た門井慶喜さんの第2作。 博学で知られる人物を主人公に据えているだけに、ウィットがあり、蘊蓄で満ち溢れた雑学事典のような作品集です。
しかしながら、一言で表現すれば衒学的。すなわち、はじめに蘊蓄ありきと思われてならないのです。
例えば、主人公の八駒敬典は以前旅行会社に勤務していたわけですが、その設定が活かされていると思われるのは表題作「人形の部屋」でのフランス人形に関する蘊蓄ぐらい。「外泊1 銀座のビスマルク」で披露される蘊蓄も、彼自身の出身地に絡められ、せっかくのチャンスを逃してしまっている印象。別に観光地を巡るようなトラベルミステリーにしろというわけではありませんが、せっかくの設定なのですからもう少し活かしようがあったのではないかと思うことしきり。「博学」という部分ばかりが強調され「元旅行会社勤務」という部分が忘れ去られたまま蘊蓄を披露し続けるため、結果として鼻につくこともしばしば。
また、本作は5つの短編で構成された短編集ですが、中心になるのはそのうち長めの3作。この3作がおもしろくないというわけではないのですが、いずれも冗長に感じられ、やや切れ味を失っているのが残念。むしろ幕間のような短めの2作のほうが切れ味を感じることができます。決して現実的とは思えないのですが、2作とも万年筆や奈良筆を買い求めようというところで見知らぬ男に相談を持ちかけられます。「外泊1 銀座のビスマルク」は特に蘊蓄と謎解きがきれいに組み合わされた例ではないかと。
決して派手ではありませんが、主人公同様静かで落ち着いた雰囲気の作品集です。
収録作:「人形の部屋」「外泊1 銀座のビスマルク」「お花当番」「外泊2 夢みる人の奈良」「お子様ランチで晩酌を」
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