近藤史恵『サクリファイス』
陸上競技で将来を嘱望されていた白石誓は、高校時代に恋人と別れたトラウマからサイクルロードレースに転向した。それは、エースの勝利のためならアシストは犠牲になることも厭わない競技。誓はチームのアシストとしてツール・ド・ジャポンに出場し、エースの石尾を超える活躍をしてしまうが・・・
ミステリと最近の流行のように思われる青春スポーツ小説を組み合わせた感のある作品。前半はツール・ド・ジャポンを舞台に、サイクルロードレースの楽しさ、厳しさと、誓の成長を描くストーリー。しかし、後半に入って一転、ミステリの様相を呈していきます。
サイクルロードレースは日本ではマイナーな部類に入る競技。それだけに前半はやや説明的にツール・ド・ジャポンでの誓の活躍が描かれています。しかし、これが全く長いとは感じないのです。それどころか競技の魅力が満載。紳士のスポーツであり、世界一過酷なスポーツであり、そして、エースのために働くアシストの存在の上に成り立つスポーツ。アタックをかけるタイミングや位置取りによる駆け引きのおもしろさなど、本当に興味深いものです。また、誓だけでなくエースの石尾、若手の有望株伊庭など、登場人物がいずれもいきいきと描かれています。この作品がミステリであることを忘れてしまうくらい。
200ページあまりの長さ、しかも後半中心ということもあり、ミステリとしては決して複雑とは言い難い構造。ですが、人間くさい物語の中で、徐々に明らかになり、そのたびに二転三転し世界を変えていく真相は、まさにこの作品のために用意されたかのようなもの。多くは語れませんが、その不可分な組み合わせに大満足なのです。
ミステリが好きな人、サイクルロードレースが好きな人はもちろんのこと、どちらにも当てはまらなくても読んでほしい作品です。おすすめ。
サクリファイス | |
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