石持浅海『月の扉』

 国際会議を控えた沖縄で、羽田行の琉球航空便が離陸直前にハイジャックされた。それぞれ乳幼児を人質にした3人の犯人達の要求は、沖縄県警に誘拐犯として逮捕された男を時間までに空港へ「連れてくる」ことだった。だが、予想もしていない事態が起こる。人質となった子どもの母親が機内のトイレで不自然な死体で発見されたのだ。ハイジャック犯は機内にいた座間味島土産のTシャツを着た男に、事件の真相究明を指示した。


 ハイジャックという冒険小説的な要素と不可能状況での死という本格ミステリ的要素を融合させることに成功した作品。この緊迫した状況下で行われる推理が非常におもしろいものでした。部外者に近い座間味くんにとって新たな事実が明らかになるたびに変化していく推理。下手な推理合戦よりも楽しめます。特に、ハイジャックされた飛行機の中という状況設定が、現場への立ち入りや死に至らしめた道具の持込などに影響し、十分に生かされているのがよかったです。


 ただ、作品の土台となるキャンプの「師匠」石嶺が全く魅力的に見えないのが残念。カリスマカリスマと警察側に持ち上げさせるのが、余計に白々しく思えてしまいました。そのためか、キャンプ関係者の行動や心情に論理的な理解はできても、心理的に納得がいかないという感じです。もっとも、石嶺のような特殊な人物は深く掘り下げて書こうとすればするほど、嘘臭くなってしまうものかもしれません。

2007年9月23日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
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月の扉 (光文社文庫)
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おすすめ平均
starsう〜ん
stars予想外
stars独創性はバッチリ!!
stars新興宗教的な話で個人的には好きではなかった
stars稚気、愛すべし

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