柴田よしき『朝顔はまだ咲かない』

 高校生の頃、学校でいじめにあったことからひきこもりになってしまった鏡田小夏。家から一歩も出ず、母親の代わりに家事をする小夏に、親友の宮前秋はいつも不思議な出来事や謎を持ってきてくれる。爽快な青春ミステリ。


 6編を収録した連作短編集。部屋に閉じこもってしまった小夏と、快活な秋との対比が印象的です。ミステリとしては薄味で少々残念ですが、小夏の成長物語として引き込まれてしまいます。
「ひまわりの誘惑」
 秋をナンパした男は、ひまわりを嫌悪していた。本物のひまわりはもちろん、ひまわり柄のものまで・・・まさに執念、恐ろしい世界です。
「黒い傘、白い傘」
 晴れた日にベランダに出ると、公園を黒い傘が横切った。しかも、夜には白い傘が走り去った・・・真相までの持っていき方がちょっと強引で引っかかってしまいました。
「さくら、さくら」
 どうやら母に恋人ができたらしい。二人が会っているところに偶然居合わせた秋に尾行を依頼するが・・・短絡的な発想から行動するところがなんとも言えずおもしろく、微笑ましかったです。
朝顔はまだ咲かない」
 「その朝顔は咲かないよ」それもそのはず、朝顔はいつの間にかアイビーに変わっていたのだから・・・運命の悪戯を感じざるを得ません。
「見えない人」
 小夏は見てしまった。公園で保存されている電車の中で。噂になっているという幽霊を・・・幽霊が出るから近づくな、そんな悪戯のような噂話がずっと続けばいいのに。心温まる話でした。
「窓を閉めて」
 古いスタジャンのポケットからから出てきた指輪。それは小夏にとって忘れられないものだった・・・忘れることができる側の人とできない側の人。運命は残酷で、そして時の流は光を与えてくれました。


 全体的に秋のキャラクターが効いているようで、爽やかでさっぱりとした印象を持ちました。小夏のことを心配しながらも言いたいこと、言わなきゃならないことは言う姿がいいですね。
 また現状を打開しようと悩んだり調べたりしている小夏の健気な姿には好感が持て、一歩ずつ前進していく姿には拍手を送りたくなります。
 新学期が始まってしまい難しいかもしれませんが、続編でまた小夏と秋に会いたいです。


収録作:「ひまわりの誘惑」「黒い傘、白い傘」「さくら、さくら」「朝顔はまだ咲かない」「見えない人」「窓を閉めて」

2007年9月8日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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