アンソロジー『午前零時』

 タイトルどおり、「午前零時」をテーマとしたアンソロジー。13人の作家のうち8人は初読の作家(*印)でした。
 真夜中、しかも今日と明日、あるいは昨日と今日が入れ替わる瞬間をテーマにしているだけに、やはりホラー系の作品が多いようです。
 尺の都合上、物語に奥行きや深みを感じるのはなかなか難しいですね。そんな中、物語に雰囲気を感じたのが「1、2、3、悠久!」「ラッキーストリング」。でも、すきなのはなんとも切ない「午前零時のサラ」とスマートな「真夜中の一秒後」です。


鈴木光司 「ハンター」
 スマートな短編。最後までこんな構造になっているとは思いもしませんでした。『リング』『らせん』の鈴木さんがこんな作品を書くとは!
坂東眞砂子 「冷たい手」
 枯れていく自分への恐怖と自責の念の間で揺れる。
朱川湊人 「夜、飛ぶもの」
 これが空を飛ぶところを見てみたい気もします。が、本当にブーメランのように向かってきたら恐ろしいでしょう。
恩田陸 「卒業」
 既読。『朝日のようにさわやかに』参照。
貫井徳郎 「分相応」
 長編の序盤だけをかじらされたような感覚。で、このつづきは?
高野和明 「ゼロ」
 なかなかおもしろいのですが、既読感漂うネタのため途中で気づいてしまったのが残念。
岩井志麻子 「死神に名を贈られる午前零時」
 怖さというよりも不気味さを感じた作品。もう深夜番組の背景のようにいる人たちを見られない?
近藤史恵 「箱の部屋」
 その生活ぶりや結末に至る過程よりも、片付けに丸一日以上かかるという状況に驚嘆。
馳星周 「午前零時のサラ」
 変わっていく関係と変わらない関係。変わっていく関係はなんとも哀しく、変わらない関係はなんとも切ない。
浅暮三文 「悪魔の背中」
 ユーモラスかつ上手くまとまった作品。悪魔の背中はどんなだったろう。
桜庭一樹 「1、2、3、悠久!」
 いかにも桜庭さんらしい姉妹が登場。最後のオチが上手くはまったけれど、それ以上のものは感じなかった。
仁木英之 「ラッキーストリング」
 オチはよかったけれど、そこまでがちょっと長すぎ。異国情緒は出ているのだが・・・
石田衣良 「真夜中の一秒後」
 午前零時の使い方がなかなかおもしろかった。最後が未来を感じられるこの作品でよかったと思わずにはいられません。


 アンソロジーは読んだことない作家さんを知るいい機会だと思っています。今回も気になる出会いがちらほらとあり、今後が楽しみです。


収録作:鈴木光司 「ハンター」/坂東眞砂子 「冷たい手」/朱川湊人 「夜、飛ぶもの」/恩田陸 「卒業」/貫井徳郎 「分相応」/高野和明 「ゼロ」/岩井志麻子 「死神に名を贈られる午前零時」/近藤史恵 「箱の部屋」/馳星周 「午前零時のサラ」/浅暮三文 「悪魔の背中」/桜庭一樹 「1、2、3、悠久!」/仁木英之 「ラッキーストリング」/石田衣良 「真夜中の一秒後」

2007年7月30日読了 【5点】にほんブログ村 本ブログへ
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