恩田陸『朝日のようにさわやかに』

 『図書室の海』以来5年ぶりの短編集。
 全体的にホラー色が強い作品が揃っています。わずか数ページしかないような掌編であっても、恩田さんらしさがひしひしと伝わってるようなものばかりです。現実から少し遊離していて、それでいてリアリティも感じられる、なんとも不思議な感覚です。目に見える恐怖というよりも、心に訴えかけるような恐怖を感じます。


「水晶の夜、翡翠の朝」
 既読。『殺人鬼の放課後』参照。
「ご案内」
 この位置に置かれたのが不気味な掌編。
「あなたと夜と音楽と」
 毎週放送されるラジオ番組にあわせて過去の犯罪を暴く手段がおもしろい。
「冷凍みかん」
 なんとも言えない恐ろしさ。今もどこかで冷凍みかんが溶けている?
「赤い毬」
 不思議な世界と襲いかかる海。「ある映画の記憶」を思い出しました。
「深夜の食欲」
 表現し難い恐ろしさがじわじわと押し寄せてきます。ドアの向こうは?
「いいわけ」
 北のあの人かそれとも海の向こうのあの人か。どちらにしろお父さんは・・・ほがらかな中にある恐怖。
「一千一秒殺人事件」
 不思議な家での不思議な出来事は不思議なまま。
「おはなしのつづき」
 まいった。この切なさはたまらない。
「邂逅について」
 エッセイ?。不思議な世界、不思議な作品との出会い。
「淋しいお城」
 ミステリーランドの予告編。恐ろしさと、どうしようもない切なさ、哀しさをあわせ持つ短編。
「楽園を追われて」
 あとがきにあるように普通のお話。『黒と茶の幻想』を思い出しました。
「卒業」
 スプラッターなんだけれどとってもシュール。この設定の長編を読んでみたい気もします。
「朝日のようにさわやかに」
 あちこちへ飛躍した話が落ち着く様が見事。でもさわやかとは思えません。サントリーのPR誌に“朝日”というのも狙いでしょうか。


 ああ、何度“不思議”という言葉を使ったでしょう。でも、本当にそんな作品集なのです。


収録作:「水晶の夜、翡翠の朝」「ご案内」「あなたと夜と音楽と」「冷凍みかん」「赤い毬」「深夜の食欲」「いいわけ」「一千一秒殺人事件」「おはなしのつづき」「邂逅について」「淋しいお城」「楽園を追われて」「卒業」「朝日のようにさわやかに」

2007年7月24日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
朝日のようにさわやかに
朝日のようにさわやかに恩田陸
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