小路幸也『空を見上げる古い歌を口ずさむ』

 ある日、凌一の息子の彰に変化がおきた。周りの人の顔がみんな〈のっぺらぼう〉に見えるというのだ。「いつかお前の周りで、誰かが〈のっぺらぼう〉を見るようになったら呼んでほしい」その言葉を思い出し、凌一は20年会っていない兄恭一に連絡を取った・・・


 第29回メフィスト賞受賞作。作中の大半は恭一によるパルプ町で過ごした幼少時の回想で占められ、ストレートに彰の身に起きた出来事の謎解きを期待した人は、肩透かしを食らうかもしれません。
 しかしながら、この回想こそが彰の身の上に起きた出来事の真相であり、そういった意味では真相のみに特化したミステリと言えなくもないでしょう。もっとも、その真相がこれでいいのかという疑問もあるのですが。もう少し現実的な真相を期待していたのです。そして、この真相から波及した結果の1つとして父親の死も含まれてしまったことが残念。父親のこと、家族のことをもう少し深く書いてほしかったです。
 また、回想では当時パルプ町で起きた数々の不可解な事件が語られるます。「事件に一枚噛んでいるような人物がいるのに、〈のっぺらぼう〉に見えるため特定できない」というのは非常にもどかしく、そしてミステリとしておもしろい設定でした。


 ただし、小路さんの作風から考えるとそういうことよりも、むしろパルプ町を舞台としたノスタルジックな物語ということが基本線で、ミステリだとかホラーだとかジャンルとしてどこに位置しているかということはあまり意味を成さない気もします。逆に「かつて子どもであった大人向け」というのはぴったりかと。

2007年5月23日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均 star
stars今後のために語られるお話
stars味のある作品。
stars「あの頃はよかった」かなぁ
star恩田陸に似てる
starノスタルジーいっぱいのファンタジー
starミステリよりファンタジー

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