森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』
詭弁論部を廃部の危機から救うため、芽野は走り出した?
詭弁論部を救いたければ学園祭のステージにおいて桃色ブリーフ一丁だけで「美しく青きドナウ」にあわせて踊れという図書館警察長官の要求を芽野は受け入れた。ただし姉の結婚を祝うために翌日の日が沈むまでの猶予を求め、親友の芹名を代わりに残して・・・(「走れメロス」)
奇才モリミーが偉大な先人の作品を京都を舞台として大胆にアレンジした作品集。
●「山月記」(中島敦)
京都府警の巡査夏目は大文字山に現れる怪異と対峙したが・・・怪異とされるものの言動がなんとも森見作品らしくておもしろいです。
●「藪の中」(芥川龍之介)
学園祭で上映された映画『屋上』。作品関係者の証言から明らかになる真実は・・・淡々と語られる中に潜む核心と食い違いが絶妙。
●「走れメロス」(太宰治)
お祭り騒ぎのように京都の町を東へ西へと駆け回る芽野。次々と押し寄せてくる図書館警察長官の追っ手。疾走感あふれる魅力的な中盤、いかにもな結末。ひねくれ具合が素晴らしい。これがベストか。
●「桜の森の満開の下」(坂口安吾)
文学を志す男は、尊敬する斎藤に背き、桜並木の下で出会った女の指摘に従った・・・幻想的な美しさと表裏一体の切なさ、儚さといったところ。
●「百物語」(森鷗外)
誘われて百物語の會に参加した森見だが、誰も主催する鹿島という男を見たことがないという・・・百物語というからには怪談でしょうが、こうくるとは予想外。
各作家の代表作にこだわらず作品をチョイスしていることからも愛着というかこだわりが感じられ、十分に消化され森見テイストの別作品として仕上がっています。
オリジナルを知らない人でも、簡単な作品紹介がついていますし、それすらなくても森見作品として楽しむことができます。「古典は読まないよ」という方でも全く問題ない作品集です。
【感想拝見】
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