友桐夏『楽園ヴァイオリン クラシックノート』

 あの特別な塾に音楽枠で受験し、わずか2名しかいない合格者の1人となったヴァイオリニストの盟。ヴァイオリニストとしての活動を休止してまで塾に通うが、塾では裏口入学をした者がいるという不穏な噂が流れ出す。盟は受験の際の演奏から、共に音楽枠で合格した巴のことを疑うが・・・


 舞台はあの特別な塾。そう、『白い花の舞い散る時間』と同じ世界の、外伝的な作品です。この『楽園ヴァイオリン』単体でも楽しめますが、まず『白い花の舞い散る時間』『盤上の四重奏』の2作を先に読まれることをおすすめします。


 物語は盟たち塾の生徒4人が塾での生活の中で、裏口入学や談話室にあるあかずの扉、そして10年前の転落事故に関する謎を解き明かそうとすることで進んでいきます。そして、運命のパーティーの夜へと。果たして、赤い花火が上がったときに盟の隣には誰がいるのか。ちょっとした日常の謎ミステリ、あるいは学園の七不思議といったところでしょうか。
 もちろん、この作品の魅力はそんな小さな謎にあるわけではなく、塾での生活の中で交わされる会話ややりとり、そして既刊とリンクする終盤部分の展開です。
 盟たちの会話は、ある時には屈託のない少女の会話であり、またある時には人生の機微を知ったかのような深い意味を持つ発言であり、さらにはたがいに相手を牽制するような緊張感あふれる会話が飛び出したりもします。このあたりの状況に応じた微妙な変化や使い分けが興味深いですね。


 また、終盤の展開で思いも寄らない真相が明らかになります。『白い花の舞い散る時間』の時ほどのインパクトはないものの、世界の裏側の黒い部分を垣間見たような感じです。
 裏切りと誘惑の応酬。
 敵か味方か、それとも。
 ここからつながる人間関係が彼女達の将来をどのように左右していくのか気になるとともに、シリーズとしての将来に展望が開けたような気がして、次回作が楽しみです。


関連作:『白い花の舞い散る時間』『盤上の四重奏

2007年5月1日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

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star単品でも面白いですが・・・

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