恩田陸『黄昏の百合の骨』

 「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」祖母の遺言に従い、かつて暮らした白百合荘に戻って2人の叔母との生活を始めた理瀬。「魔女の家」とも呼ばれる洋館での生活で、理瀬はいくつもの怪事件に巻き込まれてしまう。行方知れずになった少年はどこへ? 祖母の死の真相は? そしてジュピターとは?


 『麦の海に沈む果実』の続編にあたる恩田ミステリ。高校生になった理瀬はすっかり「あっち側」の世界にスタンスを移し、悪女と呼んで差し支えない雰囲気を身にまとっています。しかし、時折見せる子どもらしい面があり、未だ少女から大人への移行期にあるのかなとも思いました。その辺の微妙なバランスがなんとも興味深いです。「睡蓮」で登場する幼少期の理瀬や、『麦の海に沈む果実』の学園での理瀬と比較してしまったり。


 こういった物語の場合、大概は「この人が死んでしまって、こっちの人が犯人」なんて感じで、登場したときになんとなく想像がつくことが多いのですが、今回はちょっとびっくり。おそらく死んでしまうだろうと思った人は案の定死んでしまったのですが、思いもよらない人があんな風になったり、こんなふうに変貌したりと中盤からは全く驚きの連続でした。
 でも、この物語はきっとそういうことに主眼を置いていないですよね。ミステリ的なことよりも、この作品の世界を構築すること、そして水野理瀬という一人の女性を描くことに力が注がれているようでした。理瀬の変化と成長、そして「こっち側」との決別の物語ですね。


 作品全体に耽美的というか幻想的な雰囲気が漂い、それだけで作品世界にどっぷりと浸かってしまったかのよう。シリーズ続編にあたると思われる『薔薇のなかの蛇』も「メフィスト」誌上で連載が開始され、ちょっと読んでみましたがまたまた違った舞台のようです。単行本としてまとまるのはまだまだ先のことですが、こちらも楽しみです。


関連作:『三月は深き紅の淵を』『麦の海に沈む果実』『図書室の海』『殺人鬼の放課後

2007年4月24日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均
starsこれはヤバい
stars余韻を引く
starsちょっと怖いかも
stars外見では人は判断できないな
starsまたしても、やられた

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