柴崎友香『また会う日まで』

 大阪で育ちOL生活を送る有麻は休暇を利用して東京はやってきた。あの修学旅行での思い出を確かめるために。約束せずに上京した有麻は果たして同級生の鳴海と再会することができるのか。


 柴崎さんはいつも視覚的でちょっとしたことをうまく切り取って表現していて、それでいて感覚的でつかみ所がないような物語を書いてくれます。矛盾しているようだけれど、そんな作品なんです。
 今回の『また会う日まで』ではそれを特に顕著に感じました。カメラ・写真という小道具が多用されていて有麻が目にしているものはそのまま僕も見ているような錯覚に陥りそうなのだけれど、それらはいつの間にか雲のように散ってしまうのです。掴んだと思って握りしめたら消えてなくなってしまう綿菓子のような。
 日常の中のちょっとした非日常というか、でも決して平凡ではない一日。


 舞台はほぼ全編東京。有麻は関西在住なので当然のように関西弁を話します。ただ、街の名前や地名が変わっただけで関西弁も相変わらずなのに、今までの作品での関西とは随分違った空気だったようです。柴崎さん自身が東京へ引っ越したという話をどこかで読んだように記憶しているのだけれど、もしかしたらそういったことも影響しているのかもしれませんね。いや、逆に僕がそれを意識していたのかもしれません。
 ただ、作品としてのインパクトは過去の作品と比較するとやや欠けるかと。登場人物中でもっともインパクトがあったのは凪子だったのですが、そのインパクトが強すぎたのか鳴海くんに会ってあの夜の思い出を確かめるという目的が、変容してしまったように感じられたのが残念でした。


 『また会う日まで』というタイトルは、いつかまた会える日を楽しみにしているようにも解釈できるけれど、一抹の寂しさともう二度と会うことはないだろうという予感を大きく孕んだ強い決意のようでもあります。

2007年2月19日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均 star
starそのキャッチコピーは違うでしょ〜
star肩の力を抜いて、ゆっくり読める。

Amazonで詳しく見る by G-Tools
asin:4309018017 rakuten:book:11975857