橋本紡『空色ヒッチハイカー』

 常に憧れだった兄が突然いなくなった。受験生の僕は、思いたって国道1号線を西に向かうことにした。兄が残した、空のように青いキャデラックに乗って。旅の相棒は杏子ちゃん。タンクトップにミニスカートといういでたちの彼女を乗せて、キャデラックはひたすら西へと走り続ける。そして、たどり着いた先に待っていたのは・・・


 光り輝く青春ロードノベル。とにかく西へ西へと国道を1号線、2号線そして3号線へとひたすら突き進むわけですが、彰二が自分よりも年上の杏子ちゃんをキャデラックに乗せたことにより、長旅はおもしろくなります。
 ポイントとしては、とにかく彰二が子どもっぽいことですね。一人前のような口は利くけれど、実際には世の中のことなんて何もわかっていない。でも年齢を偽っているから、兄が言っていたようなことを真似して言ってみる。背伸びの連続なんです。だから年上の杏子ちゃんには常に主導権を握られ、簡単にいなされたり軽くあしらわれたりしています。杏子ちゃんが彰二を引っ張り上げる役目になっているようで、この辺の設定がラストで生きていて、彰二の成長を読み取ることができます。
 終盤近くまでは彰二と杏子ちゃんの2人にヒッチハイカーが入れ替わり加わって行く道中です。常に偉大な兄彰一の背中を追いかけ続けていた彰二としては少なからず劣等感を抱えていたのだけれど、特に石崎さんとの絡みではその博識ぶりに舌を巻き、劣等感が露わになっている気もします。勉強ができるということと、世の中で役に立つ知識を持っているということは全く異なるのです。


 こんなに情けなく頼りない優等生の彰二だけれど、ラストではこの長旅での体験もあって明日に向けて力強い一歩を踏み出します。兄の人生と自分がすすむべき人生は違うのです。自分で切り開かないといけないのです。彰二ならできるのです。だって、ちょっと挑発的でわがままだけどあんなにキュートでやさしい杏子ちゃんがついているんだから。
 今まで落ち着いたあるいは静かな印象の作品が多かっただけに、こういう明るめのタッチの作品が橋本さんのイメージとは合わない予感もしていたのですが、全くそんなことはなく十分に楽しませてもらいました。

2007年2月16日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均
stars彰二君はこりゃイケメンだ
stars青春のにおい
stars18歳が無免許で九州までドライブ+かわいい女の子つき
stars究極の青春
starsだけど、おまえは俺を理解しようとしたか

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