荻原規子『樹上のゆりかご』

 1冊の本があります。井上一馬さんの『モーニング・レイン 十七歳の日記1973』。一高校生の一年間を綴った日記です。この本を僕が読んだのは今から10年以上前のことで、この本を読んだことが今ここでblogを書いているきっかけとなり、そして荻原さんの『樹上のゆりかご』を読むきっかけとなりました。それは、『モーニング・レイン』の舞台立川高校が『樹上のゆりかご』の舞台である辰川高校のモデルになっているからです。


 学校行事に異様なまでの力を注ぎ込む進学校、辰川高校。友人たちの誘われてなりゆきで生徒会活動に参加するようになった上田ひろみ。だが、合唱祭でパンにカッターの刃が仕込まれるという事件をきっかけに、生徒会の周りで不審な出来事が相次ぐ。そして、最大の行事辰高祭を目前に・・・


 荻原さんの母校である立川高校をモデルとしたミステリアスな青春小説。荻原さんの作品というのはファンタジー小説が多く、本来であれば僕の守備範囲ではないと思っていたのだけれど、この作品だけはこの立川高校をモデルにしているという一点で読んでみました。
 それなりにおもしろかったというのが正直なところ。学校行事はワクワクするし、事件が起きたならハラハラする。ですが、どこに焦点を当てて読めばよかったのか考えると、イマイチぴんとこない。楽しかった立高での生活なのか、ミステリアスな事件なのか、有理が演じた「サロメ」の解釈なのか、男女の本質的な違いなのか、「顔のない名前のないもの」に支配された高校生活なのか、そのすべてなのかあるいはどれでもないのか・・・


 僕は「顔のない名前のないもの」とはいったい誰のことなのかという点に注目して読み進めました。この作品をミステリとしてとらえたなら、これ以外には一連の事件の犯人は誰なのかという点しかないでしょう。今となってはどちらもあまり正しい読み方ではない気がしますが。
 きっと女性が読めばまた違うだろうし、立高卒業生ならまた違うことでしょう。少なくとも、僕は想定されていた読者ではないような気がします。

2007年2月10日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均
starsことばも無く。
starsまさにゆりかご
stars戻らない若さへの挽歌
stars平凡だが読みやすい
starsささえてくれるその手があれば

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