谷原秋桜子『龍の館の秘密』

 行方不明になった父を捜すためアルバイトに励んでいた倉西美波。今回紹介してもらったアルバイトは「立っているだけで一日二万円」というアルバイト。なんとそれは托鉢。しかも、ちょっとした過ちでたどり着いてしまった京都の「龍の館」で、またしても殺人事件に巻き込まれてしまった。被害者は何故助けを求めなかったのか?


 未発表短編「善人だらけの街」を併録して復刊されたシリーズ第2作。
 美波をはじめとしたレギュラーキャラクターたちがしっかり性格づけられているため、非常に読みやすいミステリ(反面苦手とする人もいるかもしれません)。富士ミスの路線変更によってこのシリーズが埋もれてしまっていたのは、大仰な表現をすれば業界の損失だったのではないでしょうか。
 ストーリー展開は古典的でオーソドックスながら、繰り返されるどんでん返しに楽しませてもらいました。
 またトリックについてもさりげなく、そしてしっかりと伏線が引かれていて、好感が持てます。もう少し館を活用してほしかった気もしますが。


 しかしながら、更に評価すべきは短編「善人だらけの街」かもしれません。臨床治験という怪しいアルバイト(ボランティア)だけに中盤の状況はそれに絡んでいると推測できるでしょうが、それに惑わされていると・・・とにかく濃密な短編です。
 ちなみにこの『龍の館の秘密』が富士見ミステリー文庫で出されたのがもう5年も前のこと。このころからツンデレってあったのでしょうか。もしかしたら時代先取りだったのかも。


収録作:「龍の館の秘密」「善人だらけの街」
関連作:『天使が開けた密室』『砂の城の殺人

2007年2月3日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
おすすめ平均
stars京都で溺死する
stars托鉢と留学生と龍
starsスムーズに読めない

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