有栖川有栖『乱鴉の島』
新年の1冊目は、昨年の本格ミステリ・ベスト10第1位です。
疲れた体と心を休めるために孤島の民宿へ行くはずだった助教授の火村とミステリ作家の有栖川は、ちょっとした手違いから烏島へやってきてしまう。しかも、その日のうちに島を出る手段は見つけられない。招かれざる客となった2人が宿泊を許されたのはカリスマ詩人海老原瞬の別邸で、そこに集う人々は何らかの秘密を共有しているようであった。さらにもう1人の招かれざる客、IT長者の初芝真路がヘリコプターでやってきたとき、悲劇は始まった。
いわゆる孤島ものです。氏の孤島ものといえば『孤島パズル』がすぐ頭に思い浮かぶのですが、あちらは江神先輩のシリーズなので、火村シリーズとしては初めてだとか。意外でした。
冒頭に記したとおり、この『乱鴉の島』は本格ミステリ・ベスト10第1位に輝いた作品なのですが、予想に反して地味でした。道具立ては孤島のほかにも秘密の集まり、カリスマ詩人、IT長者など派手に使えるようなものを取り揃えているのですが、それにもかかわらず物語は淡々と、静かに語られていく。この作品はトリックよりもロジックで勝負するタイプなだけに、できることならばもう少し派手にしてひきつけたほうがよかったのではないでしょうか。
また、事件の犯人を突き詰めると同時に、烏島に集う人々が共有する秘密を暴くことにも主眼が置かれているため、興味が散漫になってしまう感があります。盛り沢山とも表現できるでしょうが、2つが有機的に結びついているとは思えないのが残念です。
加えて、真犯人の動機が内容はともかく後付け的で、告白に至るまでに窺い知ることが出来ないのもどうしたものかと。
ただし、犯人追求のロジックはキッチリ決まっていて、読み応えがあります。案外短編ですっきりさせたほうがよかったかもしれませんね。
関連作:『46番目の密室』『ダリの繭』『ロシア紅茶の謎』『スウェーデン館の謎』『海のある奈良に死す』『ブラジル蝶の謎』『英国庭園の謎』『ペルシャ猫の謎』『絶叫城殺人事件』
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