北國浩二『夏の魔法』
夏希は帰ってきた。9年前、ヒロとともにあの輝かしい夏をすごした風島へ。しかし、22歳になった彼女は早老症という遺伝性の難病により、年老いた老婆のように姿を変え、体を末期がんに蝕まれていた。人生最後の思い出のために偽名を使って滞在した夏希。だが、彼女の前に現れたのは、風島でアルバイトをしている立派な青年になったヒロ、そして若く美しい沙耶の姿だった。
あまりにも切なく、哀しく、そして重い物語。
ミステリ・フロンティア第28回配本作品。
輝かしい夏の思い出と現実との狭間にいる夏希の苦悩と葛藤を描く前半と、衝撃的な出来事を描く後半。賛否両論ありそうな気がしますが、前半のような話が続いて幸福な結末、あるいは静かな結末を迎える、というような話だったらそれはありふれた難病ものの物語で、「感動した」「いい話だった」となるのでしょうが、そうはいかないのがこの『[rakuten:book:11929843:title]』。あの後半であの結末だからこそ、『[rakuten:book:11929843:title]』はありふれた物語から一段上に昇華しているのです。
前半の夏希の嫉妬や葛藤は、本来であれば今自分が手にしているはずであった夢や希望、若さ、美しさなどから生まれたもの。読み手としてはそれを序盤から理解しているだけに、実際に年老いた人が抱くであろう物とは異なるそれらの感情を理解し、そして同情を禁じえないのです。
本質的には残酷な不信と純愛の物語だと思います。すべてを把握した夏希の衝撃は計り知れません。物語のすべてはこの衝撃を作り出すために存在しているかのようです。
もし時間が許すのであれば、もう一度読み込んで夏希の心の奥までつまびらかにしたいような恋愛小説。北國浩二という作家を追いかけてみるのもいいかもしれません。
【感想拝見】
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