米澤穂信『ボトルネック』

 嵯峨野リョウが兄の死を知らされたとき、彼は東尋坊に居た。亡くなった恋人諏訪ノゾミを弔っていたのだった。だが、リョウは意識を失ってしまい、気付くと金沢の自宅近くの公園にいた。そして、自宅には彼より1歳年上の嵯峨野サキという女性が。たどり着いた先は、リョウの代わりにサキが生まれたパラレルワールドだったのだ。


 痛い、とにかく痛い。そして黒い。残酷。
 かつてこれほどまでに登場人物のレゾンデートルを問われる作品があったのでしょうか。少なくとも、僕はここまでの作品を読んだことがありません。米澤作品では『夏期限定トロピカルパフェ事件』や『犬はどこだ』あたりに黒さを見ることもできたのですが、それと比較してもかなり黒いでしょう。
 SF的な要素もミステリ的な要素も持ち込まれた青春小説なのですが、中盤まではそんなに黒さや痛みを感じることもありませんでした。むしろおもしろく、物語に引き込まれて一気読みでした。でも、この内容ならポジティブにハッピーエンドにすることも難しくはないでしょうに、あえてこんな風にするなんて。でも、物語のすべてはあの最後の1行のために存在するんですよね、きっと。
 そして、タイトルにある『ボトルネック』が指す本当の意味って、あれをなんだろうなぁと。あれというか、あれとしか言えないというか。


 他人に薦めるにも、よく読み内容を理解した上で薦める相手を選ばないといけないでしょう。未読の人が、「これ、話題になってるからいいんじゃない?」なんていいかげんな薦め方をするのは絶対にやめてほしい、そんな1冊。でも傑作。

2006年11月8日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
おすすめ平均
stars最後まで読んだとき、悲しさがあふれる、自分探しのSF青春小説。
starsつらいストーリー。
stars最後にぞくりとくる作品
stars全編を流れるペシミズム
starsボトルネック

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