森谷明子『七姫幻想』

 神の時代から江戸時代まで、織姫の七つの異称に因んだ連作短編集。


「ささがにの泉」
 白い糸に閉ざされた密室で大王は事切れた。大王とともにいた衣通姫は真相を知っているはずだが口を割らない。大后は妹衣通姫が犯人ではと疑う。
「秋去衣」
 軽皇子が恋に落ちた相手、それは機織女だったが、彼女には軽皇子に近づく目的があった。
「薫物合」
 うだつが上がらない官吏元輔は、恋した夏野がお役目を終える頃になっても戻らないのが気になって仕方ない。夏野の身に何かあったのか。
朝顔斎王」
 斎王の座を退いた娟子。朝顔を愛した彼女が住む屋敷には嫌がらせが相次いだ。誰が、何のために嫌がらせをするのか。
「梶葉襲」
 瀧瀬の天気読みが外れた七夕の日、生子の乳母上総に東宮のほうから美しい梶葉襲が贈られてきた。しかし、上総には心当たりがなかった。
「百子淵」
 不二原の里には誰もが秘密にする成人の儀式があった。儀式の夜、禁忌を破って声を発した少年は命を落とした。儀式の真相は?
「糸織草子」
 機織の内職で生計を支える武家の妻志乃が、路地で手首を切り落とされた死体を見つけた。


 読み出すまでは時代物ということもあり、手を出しにくいような印象もあったのですが、読み出したら止まらないような作品でした。
 すべての作品を貫く里のことや人物のことから、恩田陸さんの『光の帝国 常野物語』を頭の片隅におきながら読みました。もちろん、作品集としての構造からイメージしたのです。もっとも印象深いのは「薫物合」「朝顔斎王」「梶葉襲」といった一連の平安朝の作品。大小の謎と恋、雅やかな時代背景といったものが巧みに配置され、うまく結びついています。全体的に謎解きもさることながら、よりストーリーに重点を置いているようでした。『七姫幻想』という書名にある蜘蛛姫・秋去姫・薫姫・朝顔姫・梶葉姫・百子姫・糸織姫という織姫の七つの異名も各作品に違和感なく溶け込み、読み応えがあります。
 個人的には間違いなく今年のMy Best候補。


収録作:「ささがにの泉」「秋去衣」「薫物合」「朝顔斎王」「梶葉襲」「百子淵」「糸織草子」

2006年10月31日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ

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