伊坂幸太郎『重力ピエロ』
「夏の1冊・2006」として9月末までに読む予定で挙げていた5作のうち、ついに残してしまっていた伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ (新潮文庫)』です。
泉水と春は半分しか血の繋がらない兄弟。春は母親が性犯罪に遭い身籠った子供だった。ある日、泉水が勤める遺伝子関連の企業が放火された。放火はボヤ程度で済んだが、春は泉水に放火を予言しており、しかも連続する放火はグラフィティアートの近くで起きている法則も突き止めていた。グラフィティアートに残された言葉は何を意味するのか。
なかなか爽快な物語でした。
親と子、家族、そしてなにより兄弟という絆に性犯罪を絡ませた青春小説。重くなりがちなテーマを掲げているのですが、独特のスタイリッシュで軽快な文章と挿入される数々のエピソード、そして細かな章立てがテンポよく、「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という春の言葉をそのまま小説でも表現したような感じがしました。
文庫化にあわせ追加されたというエピソードが、より人物像を際立たせ、そうせざるを得なくなったことの説得力を増しています。
正直なところ、序盤はややまだるく感じられたのですが、それが物語の進展とともに急速にペースアップ。特にいくつかの泉水と春が二人で行動するシーンは、緊迫感があったりするためか、かなりノリがよかった気がします。特に落書き犯の家に落書きに行くシーンなど春の高揚が伝わってきてワクワクしました。
あらすじからミステリと思って読むと大筋で想像がついてしまい期待はずれかもしれませんが、そういった先入観さえなければ展開や言葉の一つ一つを楽しむことが出来る作品です。オススメ。
【感想拝見】
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