北村薫『紙魚家崩壊』

 北村薫さんの新しい短編集は『紙魚家崩壊 九つの謎』というタイトルどおり、9編の短編を収録したノンシリーズものの短編集です。


 デビュー直後の覆面作家時代の作品からごく最近の作品までと時間的にも長いのですが、作風も日常の謎から幻想風味、ホラー風味のもの、あるいはおとぎ話の新解釈までと幅広く、北村さんの懐の深さを見せつけているようです。それでいてどの作品にも北村薫らしさがあるのはさすが。


 紙魚家崩壊」「死と密室」という「両手が恋をしている女と探偵」シリーズ、「サイコロ、コロコロ」「おにぎり、ぎりぎり」という千春さんのシリーズはおもしろかったし、「俺の席」のラストはビシッと決まっていてドキッとさせられます。
 そしてベストは「新釈おとぎばなし」。『アリとキリギリス』『カチカチ山』という誰もが知っているおとぎばなしをエッセイ的な部分も交えて語っていきます。とくに『カチカチ山』の本格ミステリ的アプローチはおもしろく、うさぎ探偵がかわいらしく活躍してくれます。『本当は恐ろしいカチカチ山』なんてところか。


 ただ、全体を通してみると物足りなさが残る短編集だったことはたしか。やっぱり読む前からどこかで日常の謎を期待してしまっているので、たとえできのいい短編集でも満足できないのです。


収録作:「溶けていく」「紙魚家崩壊」「死と密室」「白い朝」「サイコロ、コロコロ」「おにぎり、ぎりぎり」「蝶」「俺の席」「新釈おとぎばなし」

2006年8月1日読了 【5点】にほんブログ村 本ブログへ
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