辻村深月『凍りのくじら』

 僕と同世代の人であれば、ほとんど誰もがマンガで読んだり、アニメを見たりしたことがあると思われる『ドラえもん』。御多分に漏れず、僕も子どものころアニメのドラえもんをよく見たし、マンガでも読みました、あれは病院の待合室だったか、それとも床屋の待ち時間だったでしょうか。


 進学校に通う女子高生理帆子は、周囲の人々をSF(少し、ナントカ)と表現して遊んでいた。これは敬愛する藤子先生がSFをSukoshi-Fushigiと表現したことに倣っていた。彼女の元彼若尾はSukoshi-Fuhai(少し、腐敗)、そして彼女自身はSukoshi-Fuzai(少し、不在)であった。


 辻村さんの『凍りのくじら (講談社ノベルス)』は、ドラえもんと作者の藤子・F・不二雄氏への愛情に満ちた青春小説でした。「カワイソメダル」「もしもボックス」「どくさいスイッチ」etc. これらは章題に使われたものですが、これ以外にもたくさんの秘密道具が登場します。
 ミステリの要素はかなり少なくなってしまったけれど、その分人物描写がより深くなった気がします。
 前2作ほど長くはなく、その分構造としてはシンプルになった気がします。感動というか、読後にさわやかな気持ちになることができる作品でした。


 ただ残念なのは、主人公である理帆子に共感しにくい点です。なまじ勉強ができるために、ともすれば他人を見下しがちになり、それを自覚的に隠す理帆子。他人にこっそり(少し、ナントカ)なんてつけている理帆子。見下しながらも元彼との縁が切れない理帆子・・・前2作もそうだったかも知れませんが、読み手としては主人公に共感しにくいというのはやはり辛いものがあります。まあ、僕はそれほどに辛くは感じませんでしたが。
 次作は、もう少しミステリ寄りの作品を期待したいですね。彼女は綾辻ファンなのですから。

2006年6月4日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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