北村薫『盤上の敵』
テレビ局のディレクターである末永純一が帰宅すると、自宅では散弾銃を持った男が籠城していた。妻が人質になっているらしい。末永は警察を出し抜いて、籠城犯と直接交渉し、事件の解決を図ろうとするが・・・
「円紫さんと私」シリーズ、「覆面作家」シリーズ、「時と人の三部作」等々いわゆる「日常の謎」の先駆者として作品を発表してきた北村さん。『盤上の敵 (講談社文庫)』は人間の善意ではなく、黒い悪意に焦点が当てられた作品です。
ということで身構えて読み出したのですが、正直なところそこまで覚悟しなければならないほどの悪意ではありませんでした。
確かに兵藤三季は一般的に見たらかなりの悪意を持って人間を壊していく人物で、強烈なインパクトを持っています。読み進める上で心に痛みを感じることもしばしば。しかし、意図したことかどうかわかりませんが、末永の友貴子に対する愛と結末に置かれた「救い」とでこの剥き出しの悪意もかなり薄められています。というか恋愛小説としての側面を強く感じました。
末永と友貴子をそれぞれ「白のキング」「白のクイーン」に例え、白のキングによる事件の展開と、白のクイーンによる回想が交互になった構成。この構成はなかなか読みにくく、事件を読む上で白のクイーンの回想は邪魔だという感じさえします(邪魔であっても不要とは思わない)。しかし、読み進めるうちにこの構成がいかに絶妙なものであり、そして回想なしでは作品として成立しないということを思い知らされました。
人に薦めるべき作品ではないかもしれませんが、北村さんの隠された一面を開放した作品でしょう。
【感想拝見】- 個人的読書記録さま(2006.11.24追加)
- キャッチヘルブルースさま(2010.02.13追加)
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