石持浅海『セリヌンティウスの舟』

 16日に石持浅海さんの『セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)』を読了しました。


 荒れ狂う大時化の海で遭難しかかったダイバー6人は、全員互いの身体をつかんで輪を作り、救助を待った。知り合いにすぎなかった6人は、この体験を通じ信頼で結ばれたかけがえのない仲間になったのだった。しかし、ダイビングをしたある日の夜、仲間の一人米村美月が青酸カリで服毒自殺をしてしまう。四十九日の法要のあと集まった仲間たちは、現場の写真を見て不審を覚える。なぜならば、写っていた青酸カリが入った小瓶は、キャップが閉められた状態で机の上に転がっていたから。


 ノベルスサイズ200ページちょうどとコンパクトに収められた作品。そしてその大部分が自殺した美月以外の5人による推理合戦というか討論になっています。「小瓶のキャップが閉められていた」ことと「机の上に転がっていた」ことという些細とも思われる2点から、「誰かが自殺を手助けしたのか?」「手助けしたとするなら誰なのか?」という展開に膨らめていて、その議論自体は確かにおもしろいものでした。


 ただし、ゆるぎない信頼関係にある仲間だからとはいえ、あまりにも殺人や事故の可能性に対する論考が少ない気がします。
 また遭難寸前という修羅場をくぐり抜けたと関係ではあっても、これほどまでに盲目的に仲間を信頼することができるのかはなはだ疑問ではあります。この点は実際にこういう体験をしたことはないですから、「ありえる」と言い切られればおとなしく引き下がるしかありません。
 前々から石持さんの作品にはパズラーとしての称賛とともに、「登場人物を理解できない」といったような感想が多くあった気がします。僕が石持作品を読むのは4冊目ですが、今までそういったことはあまり気になりませんでした。しかし、この美しすぎる信頼関係は別です。ちょっとどうかと。まあ、これも異世界の特殊な設定と解釈すればいいのかも。
 それに、美月の自殺の動機もちょっと納得し難いものがあります。まぁ、これも体験したことがありませんから・・・


 ということで、常に一風変わった舞台設定で論理をきれいに表現してくれるのが石持さんの作品。今回はさすがに「警察を呼ばない設定」ではありませんでしたが、警察介入後に「疑い」ではなく「信頼」をキーに「犯人」ではなく「協力者」を探す推理。期待しているだけに残念でしたが、次回作も楽しみです。

2006年1月16日読了 【5点】にほんブログ村 本ブログへ

【感想拝見】

おすすめ平均 star
star「絶対的な信頼」をどこまで許容できるか
star長すぎる。
starで、何だっけ?
star何かが足りないか、何かが多すぎるのか

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