大倉崇裕『やさしい死神』

 昨日読了した大倉崇裕さんの『やさしい死神 (創元クライム・クラブ)』、おなじみの落語シリーズだけに安定した面白さがありました。


 『三人目の幽霊』『七度狐』に続く落語ミステリ第3弾の短編集。「季刊落語」の編集長牧大路と新米編集者間宮緑のコンビが落語や噺家に関わる謎を解き明かします。


「やさしい死神」
 破門した弟子を思い出し、懐かしがる老いた師匠・月の家栄楽。その栄楽が自宅で転倒、入院した。「死神にやられた」といって・・・美しき師弟愛を描いたほほえましい作品。
「無口な噺家
 脳梗塞から復帰を間近に控えた松の家文喬。しかし、妙によそよそしい弟子や、寄席の近所に救急車を呼ぶ悪戯電話など緑には気になることが・・・最後の一捻りが絶妙です。
「幻の婚礼」
 小学校時代の同級生から結婚式の司会を依頼された鈴の家梅太郎。だが、当日になって式が予定されておらず、しかも依頼してきた新婦はかなり以前に死んでいると知らされて・・・正直、ここまで手の込んだことをする必要がないような気が・・・
「へそを曲げた噺家
 華駒亭番治の高座の最中に、客席から携帯電話の着信音が! 気分を害した番治は途中で噺を打ち切ってしまう。着信音の主は番治の後援会長。しかし、電源は切っていたはずだと言い張るが・・・思いがけず、人の情を感じられる作品。
紙切り騒動」
 将来有望な若手、松の家京太は師匠京楽から破門を言い渡された。紙切りに転向したいと言ったことが原因らしい。京太は伝説の紙切り紙切り光影」に弟子入りしたいと言うが・・・光影を探しに一人京都へ向かった緑の奮闘ぶりが見所。


 今作のテーマは緑の成長。過去2作ではただひたすら牧の背中を追い続け、振り回されっぱなしだった緑ですが、今作では自らの力で推理し、真相へ近づこうという傾向が見られます。牧の留守中に牧の師匠京友成の力を借りた「幻の婚礼」や、牧にやや突き放されるように京都へ向かった紙切り騒動」からの印象が強いためです。


 全体として親子や師弟の情を扱ったものがそろった短編集。ただ、扱うのがいわゆる日常の謎なだけに、突き抜けたインパクトにやや欠ける点があります。もう少し、あっ! と言わせてくれるともっとうれしいですね。


収録作:「やさしい死神」「無口な噺家」「幻の婚礼」「へそを曲げた噺家」「紙切り騒動」
関連作:『三人目の幽霊』『七度狐

2005年4月21日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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