北森鴻『螢坂』

 「香菜里屋」シリーズ第三短編集。今夜も香菜里屋に常連客が集い、そして心に澱のように溜まっていた疑問が鮮やかに解かれていきます。


「螢坂」
 恋人を残して戦場カメラマンの道を選択した有坂。二人の思い出が残る「螢坂」はどこか? 哀しく、そして温かい結末です。
「猫に恩返し」
 猫にまつわる美談がタウン誌に掲載され、顕彰碑まで建てられた。しかし顕彰碑の裏側には女性の顔が浮かぶという・・・ 思わぬ形で痛快な物語に変化します。
「雪待人」
 再開発計画に応じなかった画材屋が9年経って店を閉めた。どうして今になって・・・ 人間は簡単に忘れないものですね、愛も怨みも。
「双貌」
 早期退職者の募集に応じた柏木。しかし、技術革新によって再就職は思いのほか厳しかった。そんなときに路上生活者と出会った・・・ トリッキーな作品。こういうラストはいいですね。
「孤拳」
 兄のような叔父の最後の願い、それは思い出の焼酎「孤拳」を探し出すこと。たとえ幻に再会することはできなくても、思い出はさらに美しくなっていきます。


 前作『桜宵』は比較的悪意や悲劇のイメージが強い作品集だったのですが、今回は人の温かみを感じられる作品が多い作品集です。また、思い出を取り上げた作品が多いのも特徴でしょう。それにしても、工藤が待ち続ける人とはどんな人でしょう。


収録作:「螢坂」「猫に恩返し」「雪待人」「双貌」「孤拳」
関連作:『花の下にて春死なむ』『桜宵

2005年3月31日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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螢坂
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