東野圭吾『片想い』
東野圭吾さんの『片想い (文春文庫)』を読了しました。今回はネタバレありなので、未読の方は注意して下さい。
毎年恒例で開かれている元アメフト部の同窓会のあと、哲朗は10年ぶりに元マネージャーの日浦美月と再会した。そして、美月は男の姿をし、しかも人を殺したと告白する・・・
片想い (文春文庫) | |
東野圭吾 文藝春秋 2004-08-04 売り上げランキング : 5851 おすすめ平均 「性別」をめぐるあらゆる問題を現実的に描いているが、受け入れられない部分もありました 設計図に基づいたかのような作品 『片想い』に込められた意味・・・深いです。 東野作品としてはコクがないかも 性同一性障害について考えさせられました。 Amazonで詳しく見る by G-Tools asin:4167110091 rakuten:book:11286395 |
以下ネタバレ。
おそらく、本書に関する書評や感想の多くは「性同一性障害」を中心に書かれているだろうと思われます。実際、この物語では心と体の性の違いに対する悩みから、ホルモン注射や性転換、最終的には戸籍交換によって「体」に合わせて与えられた性を「心」に合わせようとしている企みまでたどりつきます。メビウスの帯、黒と白とその間・・・きっとこの問題について知識や関心のなかった読者でも、深く考えさせられたことでしょう。(私もそうでした。)
しかし、本当に語られるべきことはそれだけではなく、「自分のこうありたいと思える姿」と「現実の自分」との違いではないでしょうか。それは性のことだけではなく、自分が理想とする行動とそれを思いとどまらせる家庭や仕事の存在、学生時代に思い描いていた未来と現在とのギャップなどなど。
「男」にこだわり、左眼の視力がないことを隠し続けた哲朗や、哲朗との夫婦生活に疑問を覚えカメラに走る理沙子、記者であることに徹しようとしながらも仲間のことを断ち切れない早田、事件から手を引きながらも気になって仕方がない須貝、人生の最後に大切なものを守ろうとする中尾・・・仲間たちはそれぞれに悩み続け、その代表格として取り上げられているのが性に悩む美月だったではないでしょうか。
また、これだけ大きく、重いテーマを取り上げながら最後まで読ませる東野圭吾という作家はさすがだなあと思わざるを得ませんでした。性同一性障害という言葉に尻込みをしているのであれば、ぜひ手にとってほしい1冊です。